知的財産権と独占禁止法

ビジネスとしてのライセンス取引き：「取得」された知的財産権は、「運用」されて利益を生まなければならない。これが発明創作にインセンティブを与えるべく設計された知的財産権制度の根幹である。官僚主導で進められてきた日本の知的財産権政策においては、「取得」のみが重視されて、「運用」がなおざりにされていた。これが、日本でいくら知的財産権の重要性が叫ばれても、私たちビジネスマンにとって空念仏にしか聞こえなかったことの原因である。

　知的財産権は独占権である。特許権は思想の実施を、著作権は表現の複製を、それぞれ権利者が独占する。独占権を利用して利益を得る形態はふたつある。

　ひとつは、知的財産権を他人にライセンスしないで自分だけが実施し、対象製品や役務の市場を独占して、独占による超過利潤を得る形態である。これは、知的財産権がある製品や役務の全体をカバーする場合であり、医薬品などでひろく行われている形態である。

　もうひとつは、知的財産権をひろく他人にライセンスし、ロイヤルティ収入を得る形態である。これは、知的財産権がある製品や役務を部分的にしかカバーしない－－言い換えると、ある製品役務が多数の知的財産権によってカバーされる－－場合であり、エレクトロニクスなどでひろく行われている形態である。

　ライセンス取引きが絡むのは後者の形態である。以下の説明は、後者の－－つまり、特許権をひろく他人にライセンスし、ロイヤルティ収入を得る－－形態に限っている。取引相手が大企業の場合も、中堅企業の場合も、1社だけの場合も、多数の場合もあろう。

　日本の知的財産権政策において、この形態の「運用」がなおざりにされていた理由は、官僚が、「取得」された特許権を店頭に並べておけば、誰かが買いに来てくれるだろうと思っている－－販売といえば店頭販売しか知らない－－ビジネスの素人だったことにある。これが60%以上にも達する休眠特許による膨大な国富（と私富）の無駄を招いている。

　したたかなビジネスマンには、他人の特許権を盲目的に尊重する－－要求もされないのにお金を払う－－などという本能はない（有体財産権を尊重する－－泥棒はしない－－だけの教育は親から受けている）。他人の特許権を侵害していても、警告ぐらいでお金を払うことはない。裁判に負けて、強制執行を受ける前日になって、やっと払う。権利者の立場から言えば、自分の特許権をTLOのカタログに載せて置いただけではぜんぜんだめで、侵害者を発見して、とことんまで追いつめてやっとお金になるのだ。知的財産権は楽な商品ではない。

　権利者の立場から言えば、侵害者を見つけ、追いつめ、ライセンスに持ちこむのだが、ロイヤルティ以外のライセンス条件も自分にとって最も有利なものにしたい。自分の商圏を確保するために、地域制限や客先制限や数量制限を課す。材料や部品を自分から買わせる。値崩れによるランニング・ロイヤルティの減収を防ぐために、販売価格を拘束する。あとでライセンシーから無効主張されないように不争義務を課す。多数ライセンシーの場合、おたがいバッティングしないように、非係争義務を課す。改良権利を取り上げるためアサインバックを課す。

　これらはすべて独占禁止法違反の可能性がある。ただ間違いないでほしい。独占禁止法の究極目的のひとつは「事業活動を盛んにすること」である。上に列挙した諸行為が、ビジネスマンにとって自殺行為だから、独占禁止法が親切にも禁止してくれているのだ。「公正かつ自由な競争」は、あなたを含む産業全体を活性化する。

　もうひとつ、日本の官僚があまり認めたがらないことだが、日本の企業は知的財産権を行使される側－－つまり侵害訴訟の被告側－－に立つことが圧倒的に多い。知的財産権訴訟の被告にとって、独占禁止法は力強い味方である。なにしろ、原告は知的財産権者で、定義上モノポリスト（独占者）なのだから・・。彼らは、ライセンス交渉においても、上に列挙したような制限条項を押し付けてくるだろう。うっかり同意すれば、彼らの永久奴隷になる。

　原告になるにしても被告になるにしても、知的財産権でお金儲けをしようと思ったら、ビジネスマンのための法律である独占禁止法の洗礼は一度はくぐらなければならない。

1．独占禁止法：

1．1．市場原理：

図1のモノポリスト行動モデルにおいて、価格差別がない場合、競争によって形成される価格Pe／数量Qeの交点E（均衡点）で、消費者余剰と供給者余剰が最大になり、資源の最適配分と供給量の最大化が実現する。この価格では、これ以上の価格でも買える顧客は望外の得をしたことになる。これが消費者余剰である（PeE、D、p軸で囲まれた図形）。これ以下の限界費用で供給できる供給者も望外の得をしたことになる。これが供給者余剰である（PeE、MC、p軸で囲まれた図形）。余剰は投資され、経済を拡大する。余剰が生じるのは、差別がないという前提のため、商品価格が1市場のなかで一義的にきまるからである（1物1価）。モノポリストは、社会的な均衡点ではなく、限界費用曲線と限界収入曲線の交点N（利潤最大化点）に対応する価格Pm／数量Qmを選択する。その場合、社会は、図形MNEで表される死重損失（deadweight loss）を受ける。これが知的財産権制度の社会的コストである。

1．2．競争法：

自由市場は、単独事業者による独占行為、複数事業者の共謀によるカルテルによってつねに不安定化にさらされる（市場の失敗）。そのため、市場における自由な競争の確保に必要最小限の法の関与が要求される。それが競争法である。米国では1890年シャーンマン法、1914年クレイトン法／連邦取引委員会（FTC）法、日本では、1947年独占禁止法、欧州では1957年EEC条約（現EC条約）81/82条がそれにあたる。米国では「反トラスト法」、欧州では「競争法」と呼ぶが、一般には「競争法competition laws」である（日本の大学には「経済法」という講座がある）。

1．3．歴史：

1947年、進駐軍の指令によって制定された独占禁止法（私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律（昭和22.4.14法54））は、米国ニュー・ディール派の影響のもとで、きわめて理想主義的な内容のものであった。1951年独立を挟む1949年と1953年の改正は反動的なもので、1950年代は独占禁止法の「冬の時代」ともいわれる。1960年代、日本産業の寡占化が進行（他方、消費者意識の高まりによって1962年景品表示法が成立）、1969年合併によって新日鉄が誕生した。しかし、1970年代、石油カルテルとインフレによって寡占の弊害が認識され、1977年改正では、課徴金／寡占対策／純粋構造規制（8条の4）など独占禁止法の強化が実現した。1980年代の日米貿易摩擦による外圧もあって、1990年代、規制緩和が大きく進んだ。2005年、課徴金が引き上げられ、リーニエンシー（措置減免）制度が導入された。

1．4．目的：

　独占禁止法の目的（法1条）は、さまざまな（ときには相反する）イデオロギーの合成物ともいえるものだが、単純化すれば、(1)公正かつ自由な競争を促進することによって、(2)事業活動を盛んにし、(3)もって消費者利益を確保する－－という3段構造である。

1．5．規制：

独占禁止法の実体規定は行為規制と構造規制に大別される。概要（抜粋または要約）を下に示す。下線と［コメント］は私見。

行為規制

3条　事業者は、私的独占［前段］または不当な取引制限［後段］をしてはならない。

　2条5項　この法律において私的独占とは、事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法を以ってするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。

　2条6項　この法律において不当な取引制限とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義を以ってするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。

6条　事業者は、不当な取引制限又は不公正な取引方法に該当する事項を内容とする国際的協定又は国際的契約をしてはならない。

19条　事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。

　2条9項　この法律において不公正な取引方法とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。

　1＊共同の供給拒絶とその誘導［継続も困難もない。per se illegal］。

　2　差別対価を継続して他事業者の事業活動を困難にすること、またはそのおそれ。

　3＊著しい総原価割れ供給を継続して他事業者の事業活動を困難にすること、またはそのおそれ。

　4＊商品販売につき、再販価格拘束とその誘導［継続も困難もない。per se illegal］。

　5　継続的取引における優越的地位の濫用。

［以上いずれも「不当に」（2）、「正常な商慣習に照らして不当に」（5）、「正当な理由がないのに」（1＊/3＊）が条件（＊印は不当性が推定されている）。1/4項はper se illegal（不当も公正競争阻害もない）。旧2条9項列挙（現6号）のうち、課徴金対象行為を抜き出して特定した（旧法の公正競争阻害を困難と狭くしている）］

　6　前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であって、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの。

　　イ　不当に他の事業者を差別的に取り扱うこと。

　　ロ　不当な対価をもって取引すること。

　　ハ　不当に競争者の顧客を自己と取引するよう誘引し、又は強制すること。

　　ニ　相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもって取引すること。

　　ホ　自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること。

　　ヘ　競争者の事業を妨害すること。

不公正な取引方法一般指定［昭和57年公取委告示15号から、現2条9項1-5項の課徴金対象行為を除いたもの］：いずれも「不当に」、「正常な商慣習に照らして不当に」、「正当な理由がないのに」が条件［＊印は不当性が推定されている］。見え消しは2009年改正。

差別	1＊	共同の取引拒絶とその誘導
	2	単独の取引拒絶とその誘導
	3	差別対価
	4	取引条件の差別
	5	事業者団体における差別
対価	6＊	不当廉売
	7	不当高価購入
表示	8	欺瞞的顧客勧誘
	9	不当な利益による顧客勧誘
拘束	10	抱き合わせ販売
	11	排他条件付取引
	12＊	~~再販価格拘束［相手方およびその取引先］~~
	1312	拘束条件付取引［前項以外］
地位	1413	優越的地位の濫用による不当干渉
妨害	1514	競争者に対する取引妨害
	1615	競争者に対する内部干渉

構造規制：

8条　事業者団体は、次の各号の一に該当する行為をしてはならない。

　1　一定の取引分野における競争を実質的に制限すること。

　2　第6条に規定する国際的協定・・をすること。

　3　一定の事業分野における現在または将来の事業者の数を制限すること。

　4　構成事業者（・・）の機能又は活動を不当に制限すること。

　5　事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること。

10条　会社は、他の会社の株式を取得・・することにより、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合には、当該株式を取得・・してはならず、及び不公正な取引方法により他の会社の株式を取得・・してはならない。

　会社以外のものに準用（14条）。同様の合併（15条）、営業譲受け（16条）も禁止。

適用除外：

21条　この法律の規定は、著作権法、特許法、実用新案法、意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。

1．6．いくつかの重要概念：

　「一定の取引分野（＝市場）」：独占禁止法の最も基本的な概念だが、本質的に独占権である知的財産権によって保護される製品やサービスに関しては、とくに深く考える必要がある。「知的財産権は一般の有体財産権とどこも変わらない」というシカゴ学派のテーゼは、有体物に対する所有権が占有物にしか及ばないのに、知的財産権がすべての同種物の製造販売使用を差し止めることのできる権利だという事実をあえて無視している。

　米国1992年水平合併ガイドライン（司法省／FTC）[1]は、市場を、「ある仮想的な企業が、小幅ではあるが有意でかつ一時的ではない価格引上げ（small but significant and nontransitory increase in price “SSNIP”）を実行することが可能である製品またはその集合およびそれらが販売される地理的地域」と定義する。このような値上げをして利益を得ることのできる力が「市場力」である。仮想的な値上げによって買手がどの程度代替品に逃げるかによって「製品市場」と「地理的市場」を画定するのである。製品市場を「特許製品市場」ととれば、この市場における供給者のシェアは100%である（「小さな市場」アプローチ）。

　抱き合わせ事件のData General 1984[2]では、タイング商品の「経済力」認定に際して、OS著作権による顧客の’lock-in’状態が考慮された。’lock-in’状態の顧客は、供給者が値上げしても、短期的には逃げるところがないので、そのまま市場として画定できるのである。「特許の存在は、典型的な関連市場分析と市場力評価を大きく変えた。・・Image Technical 1992最高判[3]は、一つのブランドないし一種類の製品が、とくにその製品が一つの供給源からしか入手できない場合、それ自身で一つの独立の市場と考えられる状況が存在する可能性を認めた」[4]。

　「一定の取引分野における競争を実質的に制限」（法3条、2条5／6項）：私的独占と不当な取引制限双方の構成要件である。伝統的には、「競争自体が減少して、特定の事業者または事業者集団が、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量そのた各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる形態が現れているか、または少なくとも現れようとする程度に至っている状態」[5]、「いいかえれば」、アウトサイダーに対する強い抑圧を要件とする[6]。より現代的には、「一定の取引分野における競争を全体としてみて、有効な競争を期待することがほとんど不可能な状態をもたらすこと」[7]。①行為（相互拘束and意思の連絡、排除or支配）と②対市場効果を別々に認定する（インサイダー間の競争抑圧ではない）。「期待」だから値上げの成否は関係なく、合意時に既遂になる。

　「公共の利益に反して」（法3条、2条5／6項）：私的独占と不当な取引制限双方の構成要件である。ここでいう「公共の利益」を「競争秩序」そのものととらえるのが、公正取引委員会の立場のようである（宣言説）。これを「消費者の利益」や「国民経済全般の利益」とまで一般化すると、たとえば、デザイン模倣業者を排除するためのカルテルが、「公共の利益に反して」いないと主張するようなことが考えられる[8]。だが、このような一定の価値判断にもとづく「公共の利益」の主張を許すと、たとえば知的財産権を利用して並行輸入を排除するカルテルもいいのかという主張につながり、法3条が無意味になる可能性がある。上の例でいうと、知的財産権侵害は、カルテルではなく、裁判で排除すべきである。ただ、石油カルテル最判昭59.2.24は、宣言説を原則とし、例外的に法益衡量説を認めている。

　「公正な競争を阻害するおそれ」（法19条／2条9項）：不公正な取引方法の構成要件である。最高裁はこれを「不当に」（法2条9項／一般指定）と同義にとらえている[9]。正確には、「公正競争阻害性」は「不当性」の部分集合である（「不当に・・する行為」であって「公正な競争を阻害するもの」）。「公正な競争を阻害するおそれ」は個々の行為との関係で把握されるので一般化は困難だといわれるが、独占禁止法研究会報告「不公正な取引方法に関する基本的な考え方」は、大要、つぎのような類型化を試みている。ガイドラインはほぼこれに拠っているようである。

(1)自由な競争の侵害（競争の減殺）	(2)競争手段の不公正	(3)自由競争基盤の侵害
(a)競争者等の取引機会の排除など
(b)競争そのものの侵害

1．7．執行組織と措置体系：

　公正取引委員会：委員長と4人の委員からなる行政委員会である。内閣総理大臣の所轄に属すが、「独立してその職権を行う」（法28条）ので、上級機関の指揮監督を受けることはない。委員会の事務を処理するため事務総局が置かれる（現在約650人）。準司法的権限（審判）と行政的権限（告示、ガイドライン、事前届出、事前相談、（公表）警告、注意）の両面がある。

　審判：審査官による審査の結果、違反ありと認定されれば排除措置命令が発せられる。関係人（事業者）の申立によって審判に移行、審判官によって審決案が作成され、これに基づいて委員会が審決をおこなう（審判審決）。審判の過程で被審人の同意に基づく同意審決がおこなわれることもある（近年、審決は年30件程度）。

　審判審決に不服であれば、被審人は東京高裁に審決取消訴訟を提起することができる。東京高裁は実質的証拠法則によって裁判する（公取委の事実認定を尊重する）。

　課徴金：違反が、①対価／供給量／シェア／取引先／購入にかかわる不当な取引制限または支配型の私的独占、②排除型私的独占、③特定の不当廉売／差別対価／共同の取引拒絶／再販売価格拘束（それぞれ同一の違反行為を繰り返した場合）、④優越的地位の濫用であれば、対象売上高に対して下の課徴金が課される。累犯企業および主導的事業者に対して加算制度（5割増）。

	製造業ほか	小売業	卸業
特定の不当な取引制限／支配型私的独占	10%（4%）	3%（1.2%）	2%（1%）
排除型私的独占	6%	2%	1%
特定の不当廉売／差別対価／共同の取引拒絶／再販売価格拘束の繰り返し	3%	2%	1%
特定の優越的地位の濫用	1%

　　　　（　）内は小企業（＝製造業ほか3億円/300人以下／小売業0.5億円/50人以下／卸業1億円/100人以下）

課徴金減免（リーニエンシー）：

一定の法定要件－－みずから公正取引委員会に情報提供をおこない、自発的にカルテルから離脱する－－を満足する事業者の課徴金を免除ないし減額する（5社まで）。

　刑事：3条系禁止規定（3条/6条/8条1項1-4号）違反および審決違反については罰則があり、公正取引委員会の専属告発（検事総長あて）、東京高裁の専属管轄である。裁判所は、違反行為に供された特許等の取り消しを宣告することができる（100条1項）。

　民事：独占禁止法違反によって損害を受けた者は、一般に、民法709条に基づく損害賠償（または703条に基づく不当利得の返還）を請求することができる（いままで60件弱）が、公正取引委員会の審決が確定した違反については、法25条が特別の損害賠償請求を認めている（無過失責任－－東京高裁の専属管轄－－いままで約20件）。さらに、法24条は「不公正な取引方法」について差止請求を認めている（2000年制定以来、件数はきわめてすくない）。

1．8．適用除外：

公正取引委員会は1950年代以来増え続けてきた独占禁止法の適用除外を、1990年代を通して精力的に減らしてきた（1991年の42法律68制度→1997年の20法律35制度）。知的財産権は適用除外の最後の牙城で、法21条による知的財産権の行使や23条4項による著作物の再販価格維持に対する適用除外という大物が残っているほか、商業用レコードの2次使用料や貸与権報酬に関する権利者団体の協議などの適用除外が協調的行動の媒体となっているおそれがある。

1．9．知的財産ガイドライン：

　公正取引委員会のガイドラインや研究会報告書（以下「ガイドライン」と総称することもある）はもちろん法律でも政令でもなく、そこに示されている法の解釈／適用は裁判所を拘束するものではない。ガイドラインは、その時々における行政府の偏向を反映することもある（このことは米国ではとくに顕著で、判例原則から意識的に乖離することもある[10]）。しかし、この限界さえ承知していれば、ガイドラインはその時々のマージナルなビジネス慣行の網羅的なコレクションとして実務上参考になる（この意味では研究会報告書も差はない）。ガイドラインは、判審決例のほか、多数の相談案件からも事例を抽出しており、全体ではかなりの違法行為類型をカバーしているが、どうしても過去の事例の集大成という限界があって、フロンティア的な分野を捉えきれないうらみがある。本稿では、脚注を利用して、米欧の事例が日本法ではどうなるか、問題を提起している[11]。

　知的財産ガイドライン：

　公正取引委員会は、1968年「国際的技術導入契約に関する認定基準」を、1989年「特許ノウハウ・ライセンス契約における不公正な取引方法の規制に関する運用基準」を、1999年7月30日「特許ノウハウ・ライセンス[12]契約に関する独占禁止法上の指針」（以下「旧指針」）を、さらに2007年9月28日「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」（以下「現行指針」）を、それぞれ先行のガイドラインをリプレースする形で公表した。

現行指針は、多くの点で旧指針と変わっている。いちばん重要な変化は、現行指針が、もはや旧指針の「ライセンス契約」にどどまらず、「技術を利用させないようにする行為」として、知的財産権の一方的行使をも対象にしている点である。「技術を利用させない行為」ではなくて、「技術を利用させないようにする行為」と原因行為まで含めることで、単なるライセンス拒絶だけでなく、解釈次第では、接続やアクセスやリバース・エンジニアリングに対する拒否や妨害まで含む行為が、もちろんほかの一定の要件を満たせば、私的独占や不当な取引制限とされる可能性を開いた。

　一方、現行指針は、知的財産ライセンス契約に関して、範囲制限、とくに販売数量制限、販売地域制限、不争義務、利用技術の召し上げなどについて、旧指針よりも権利者寄りになっているところもあり、いずれも、パブリック・コメントでは大きな議論を呼んだ[13]。

　現行指針は4部構成で、第1「はじめに」では、まず、競争政策と知的財産制度の関係が述べられており、知的財産制度に競争促進効果がありうるというシカゴ学派のオプティミズムを前提としながらも、知的財産の利用制限が競争に悪影響を及ぼすことがあるとして、保護と利用のバランス確保を政策の根底に据える。つぎに、指針の適用範囲として、伝統的な工業所有権のほか、プログラム著作権とノウハウを含める。情報化時代の最先端に位置するコンテンツの著作権を含めていないことが注目される。

　第2「独占禁止法の適用に関する基本的な考え方」では、まず、独占禁止法21条の適用除外

についての考えかたとして、「技術の利用に関する制限行為のうち、そもそも権利の行使とはみられない行為には独占禁止法が適用される」という公正取引委員会の伝統的解釈を述べており、旧指針と変わりはない（4．1．参照）。つぎに、「市場」についての考え方が述べられているが、とくに従来の公正取引委員会の方針と変わりはない（1．6．参照）。つぎの「競争減殺効果の分析方法」では、従来の指針にはなかった「安全港」の考え方として、競争者の製品シェア20％以下または代替技術5個以上であれば、競争減殺効果は軽微であると述べている（米国のような「革新市場」は採用していない）が、「販売価格・販売数量・販売シェア・販売地域・販売先にかかわる制限、研究開発活動の制限、改良技術の独占グラントバック・アサインバックの場合を除く」として大きな適用除外があるので、実務上は「安全港」を過信するのは禁物である。

　第3「私的独占および不当な取引制限の観点からの考え方」、第4「不公正な取引方法の観点からの考え方」が各論に相当するが、問題行為を法条（3条前後段、19条）別に述べており、問題行為別ではないため、実務的にはかなり使いにくい。たとえば、パテントプールは3条前段と後段で計5回も出現する

以下、いちいち断わらないが、3条では「公共の利益に反して」「一定の取引分野における競争を実質的に制限」すること、19条は「公正な競争を阻害するおそれ」が要件である。

　1．技術を利用させないようにする行為：

「技術を利用させないようにする行為」は、ライセンス契約を対象とする旧指針では扱いきれなかった「一方的ライセンス拒絶」[14]に対する独占禁止法の適用という点で、画期的な意義を有する。現行指針に挙げられている「技術を利用させないようにする行為」は、限定列挙ではなく、判審決例や重要な相談案件を抽象化して例示したものであって、現今の産業界でみられる「技術を利用させないようにする行為」はほかにいくらでもある[15]。

「技術を利用させないようにする行為」は、3条前段違反の場合と、19条違反の場合と、その両方の場合とがある。「買い集め」と「パテントプール」は3条前段の私的独占（ほかに「技術を利用させないようにする行為」としてではなく、3条後段の不当な取引制限にも該当する）だけだが、「横取り行為」と「ホールドアップ」は3条前段と19条が重畳適用される。「差別的ライセンス拒絶」は19条だけである。下表は、私が分析用に作ったものである。

「技術を利用させないようにする行為」比較表：は原文。［　］は私の補足。

私的独占

不公正な取引方法

ボックス1：第3 1(1)ア パテントプール（後記２－(１)参照）を形成している事業者が、新規参入者や特定の既存事業者に対するライセンスを合理的理由なく拒絶することにより当該技術を使わせないようにする行為は、他の事業者の事業活動を排除する行為に該当する場合がある。

　＜具体例＞○ パチンコ機を製造するＸ社ら10 社及びＹ連盟がパチンコ機製造に関する特許権等を所有し、そのライセンスなしにはパチンコ機を製造することが困難な状況にあったところ、Ｘ社ら10 社がこれらの権利の管理をＹ連盟に委託し、Ｘ社ら10 社及びＹ連盟が第三者にはライセンスをしないこと等の方法により新規参入を抑制していたことが独占禁止法第３条違反とされた（平成９年８月６日審決（平成９年（勧）第５号））。

ボックス6：

ボックス2：第3 1(1)イある技術が一定の製品市場における有力な技術と認められ、多数の事業者が現に事業活動において、これを利用している場合に、これらの事業者の一部のものが、当該技術に関する権利を取得した上で、他の事業者に対してライセンスを拒絶することにより当該技術を使わせないようにする行為は、他の事業者の事業活動を排除する行為に該当する場合がある。（横取り）

　例えば、多数の事業者がパテントプールに参加し、プールの管理者から一定の製品市場において事業活動を行うために必要な技術のライセンスを受けて事業活動を行っている場合に、プールに参加する事業者の一部が、他の参加者に知らせることなく、プールの管理者からプールされている技術を買い取って他の参加事業者に使わせないようにする行為はこれに該当する場合がある。

ボックス7：第4 2(1) 自己の競争者がある技術のライセンスを受けて事業活動を行っていること及び他の技術では代替困難であることを知って、当該技術に係る権利を取得した上で、当該技術のライセンスを拒絶し当該技術を使わせないようにする行為は、競争者の事業活動の妨害のために技術の利用を阻害するものであり、知的財産制度の趣旨を逸脱するものと認められる。したがって、これらの行為は競争者の競争機能を低下させることにより、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する（一般指定第2項、第14 項）。［横取り］

　例えば、多数の事業者が製品市場における事業活動の基盤として用いている技術について、一部のライセンシーが、当該技術に権利を有する者から権利を取得した上で、競争関係に立つ他のライセンシーに対して当該技術のライセンスを拒絶することにより当該技術を使わせないようにする行為は、不公正な取引方法に該当する場合がある。

ボックス3：第3 1(1)ウ一定の技術市場又は製品市場において事業活動を行う事業者が、競争者（潜在競争者を含む。）が利用する可能性のある技術に関する権利を網羅的に集積し、自身では利用せず、これらの競争者に対してライセンスを拒絶することにより、当該技術を使わせないようにする行為は、他の事業者の事業活動を排除する行為に該当する場合がある。（買い集め）

　例えば、製品市場において技術Ａと技術Ｂが代替関係にあり、技術Ａに権利を有する者と技術Ｂに権利を有する者が、それぞれの技術が事実上の標準となることを目指して競争している状況において、技術Ａに権利を有する者が、技術Ｂを利用するためにのみ必要でありかつ技術Ａを利用するためには必要のない技術について、その権利を買い集め、製品市場において技術Ｂを利用して事業活動を行う事業者に対して、ライセンスを拒絶して使わせないようにする行為は、これに該当する。

ボックス8：

ボックス4：エ多数の事業者が製品の規格を共同で策定している場合に、自らが権利を有する技術が規格として採用された際のライセンス条件を偽るなど、不当な手段を用いて当該技術を規格に採用させ、規格が確立されて他の事業者が当該技術についてライセンスを受けざるを得ない状況になった後でライセンスを拒絶し、当該規格の製品の開発や製造を困難とする行為は、他の事業者の事業活動を排除する行為に該当する[16]。

　また、公共機関が、調達する製品の仕様を定めて入札の方法で発注する際、ある技術に権利を有する者が公共機関を誤認させ、当該技術によってのみ実現できる仕様を定めさせることにより、入札に参加する事業者は当該技術のライセンスを受けなければ仕様に合った製品を製造できない状況の下で、他の事業者へのライセンスを拒絶し、入札への参加ができないようにする行為についても同様である[17]。［ホールドアップ］

ボックス9：第4 2(2) ある技術に権利を有する者が、他の事業者に対して、ライセンスをする際の条件を偽るなどの不当な手段によって、事業活動で自らの技術を用いさせるとともに、当該事業者が、他の技術に切り替えることが著しく困難になった後に、当該技術のライセンスを拒絶することにより当該技術を使わせないようにする行為は、不当に権利侵害の状況を策出するものであり、知的財産制度の趣旨を逸脱するものと認められる。これらの行為は、当該他の事業者の競争機能を低下させることにより、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する（一般指定第2項、第14 項）。［ホールドアップ］

　例えば、共同で規格を策定する活動を行う事業者のうちの一部の者が、自らが権利を有する技術について、著しく有利な条件でライセンスをするとして、当該技術を規格として取り込ませ、規格が確立して多くの事業者が他の技術に切り替えることが困難になった後になって、これらの事業者に対してライセンスを拒絶することにより、当該技術を使わせないようにする行為は、不公正な取引方法に該当する場合がある。

ボックス5：

ボックス10：第4 2(3) ある技術が、一定の製品市場における事業活動の基盤を提供しており、当該技術に権利を有する者からライセンスを受けて、多数の事業者が当該製品市場で事業活動を行っている場合に、これらの事業者の一部に対して、合理的な理由なく、差別的にライセンスを拒絶する行為は、これらの事業者の製品市場における競争機能を低下させるおそれがある場合は、知的財産制度の趣旨を逸脱するものと認められる。したがって、このような行為が公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する^注¹¹（一般指定第4項）。［差別的ライセンス拒絶］

　　　注11 一定の制限行為が差別的に行われる場合に、当該制限行為自体が競争に及ぼす影響に加え、差別的であることによる競争への影響を検討することは、以下３ないし５に述べる行為類型についても同様である。

　2．私的独占：

　「技術を利用させないようにする行為」以外の私的独占行為として、現行指針は、支配または排除行為として、(1) マルティプル・ライセンスにおいて、権利者がライセンシーに対して販売価格／販売数量／販売先等を制限する行為、(2) 必須技術の権利者が、ライセンシーに対して代替技術の開発を禁止する行為、(3) 必須技術の権利者が、ライセンシーに対して、他の技術のライセンスを受けるよう義務を課す行為の3つを挙げている。

　3．不当な取引制限：

　パテントプール：　

パテントプールとは、ある技術に権利を有する複数の者が、それぞれが有する権利または当該権利についてライセンスをする権利を一定の企業体や組織体に集中し、当該企業体や組織体を通じてパテントプールの構成員等が必要なライセンスを受けるものをいう。

パテントプールは、前掲「比較表」のボックス1［パテントプール］で示した通り、「技術を利用させないようにする行為」としてして私的独占に該当するほか、(1) 対外ライセンス条件を共同で取り決めたり、改良や相手先を制限する場合、(2) 対価／数量／供給先等を共同で取り決める場合、または、(3) 排他的パテントプールで、新規参入者や特定の事業者にライセンスを拒絶する場合、不当な取引制限に該当する。

技術標準策定維持のためのパテントプールについては、本知的財産ガイドラインではなく、後述（4.3.3.）の標準化パテントプール・ガイドラインが適用される。

マルティプルライセンス[18]：

マルティプルライセンスとは、ある技術を複数の者にライセンスすることをいう。

マルティプルライセンスにおいて、ライセンサーとライセンシーが共通の制限を受けるとの認識のもとに、当該技術の利用の範囲、当該技術を用いて製造する製品の販売価格[19]／販売数量／販売先／当該技術の改良・応用研究／改良技術についてライセンスをする相手方／代替技術の採用等を制限[20]する行為は、不当な取引制限に該当する[21]。

クロス・ライセンス：

クロスライセンスとは、技術に権利を有する複数の者が、それぞれの権利を相互にライセンスをすることをいう。

関与する事業者が少数であっても、それらの事業者が一定の製品市場において占める合算シェアが高い場合に、(1) 当該製品の対価／数量／供給先等について共同で取り決める行為や、(2) 他の事業者へのライセンスをおこなわないことを共同で取り決める行為は、不当な取引制限に該当する。また、(3) 技術の利用範囲としてそれぞれが当該技術を用いておこなう事業活動の範囲を共同して取り決める行為は、不当な取引制限に該当する。

　4．不公正な取引方法：

　4．1．技術を利用させないようにする行為：

　前掲「比較表」のボックス7［横取り］／ボックス9［ホールドアップ］の各行為は、私的独占とともに、不公正な取引方法にも該当する。ボックス10［差別的ライセンス拒絶］は不公正な取引方法だけに該当する。

　4．2．ライセンシーに対する[22]技術の利用範囲を制限する行為：

　（1）権利の一部の許諾：

　区分許諾：特許権ライセンス[23]で、生産／使用／譲渡／輸出等のいずれかに限定するのは○[24]。

　技術の利用期間の制限：○。

　技術の利用分野の制限：分野（製品の特定等）限定は○。

　（2）製造にかかわる制限：

　製造できる地域の制限：○

　製造数量の制限または製造における技術の使用回数の制限：最低数量制限は、他の技術の利用を排除することにならない限り○[25]。最高数量制限は、市場全体の供給量を制限する効果[26]がある場合は●。

　（3）輸出にかかわる制限：

　輸出禁止義務[27]：○。

　輸出地域制限：○。

　輸出数量制限：一般には○だが、還流妨害効果がある場合は21条に照らして判断。ただし国内消尽の場合またはノウハウの場合は●。

　輸出業者制限：●。

　輸出価格制限：国内市場に影響がある場合●。

　（4）サブライセンス制限：○。

　4．3．ライセンシーに対する技術の利用に関し制限を課す行為：

　（1）原材料・部品にかかわる制限：品質／購入先制限は、機能・効用保証／安全性確保／秘密漏洩防止など合理的なものは○。しかしこれらの限度を超えたものは●[28]。

　（2）販売にかかわる制限：

　販売地域／販売数量制限：21条に照らして判断。ただし国内消尽の場合またはノウハウの場合は●。

　販売先制限：●。

　特定商標使用義務：○。

　（3）販売価格／再販価格の制限：●。

　（4）競争品の製造／販売または競争者との取引きの制限：ノウハウの秘密漏洩目的以外●。

　（5）最善実施努力義務：○。

　（6）ノウハウの秘密保持義務：○。

　（7）不争義務：原則は○[29]。しかし無効権利が存続し当該権利の利用が制限される場合は●。ライセンシーが権利の有効性を争った場合にライセンスを解除する条項は○[30]。

　4．4．ライセンシーに対するその他の制限を課す行為：

　（1）一方的解約条件：独占禁止法違反の手段として用いられる場合は●。

　（2）技術の利用と無関係なライセンス料の設定：ライセンシーが競争品／競争技術を利用することを妨げる効果あれば●。しかしライセンス料算定方法に合理性あれば○。　

　（3）権利消滅後の制限：●。しかし延払いと認められる場合は○。

　（4）一括ライセンス：効用保証など合理性あれば○。しかしこれらの限度を超えたものは●。If-usedであれば○。

　（5）技術への機能追加：原則○。しかしプラットフォームにロックインされる場合は●。

　（6）非係争義務：●。

　（7）研究開発活動の制限：●[31]。ただしノウハウの秘密漏洩防止に必要な場合は○。

　（8）改良技術の譲渡義務／独占的ライセンス義務：●。

　（9）改良技術の非独占的ライセンス義務：○。

　（10）取得知識／経験の報告義務：○。

ガイドライン－－問題行為別一覧：

　　　　　　　　　　　　　　　○白　△灰　●黒　■技術を利用させないようにする行為　　KH：ノウハウ　　

参照	問題行為	評価	法条
知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針
2-5	契約者シェア計20%以下または代替技術5以上（安全港）（法3条後段/19条違反には不適用）	○
3-1(1)ア	パテント・プール（ライセンス拒絶）	■	法3前
3-1(1)イ	横取り（多数事業者が利用中の有力技術を取得、ライセンス拒絶、パテント・プール）	■	法3前
3-1(1)ウ	買い集め（自己不使用、不可欠、拒絶による参入妨害など）	■	法3前
3-1(1)エ	ホールドアップ（多数事業者が利用する技術につき規格策定や発注者を誤導、ライセンス拒絶）	■	法3前
3-1(3)ア	マルティプル・ライセンス（販売価格・販売数量・販売先等制限）	●	法3前
3-1(3)イ	必須技術につき代替技術開発禁止	●	法3前
3-1(3)ウ	必須技術につき別ライセンス・製品購入抱き合わせ	●	法3前
3-2(1)イ	パテント・プール（対外ライセンス条件共同取決め、改良・相手先制限）	●	法3後
3-2(1)ウ	パテント・プール（対価、数量、供給先等共同取決め）	●	法3後
3-2(1)エ	排他的パテント・プール（ライセンス拒絶）	●	法3後
3-2(2)	マルティプル・ライセンス（利用範囲・販売価格・販売数量・販売先等制限、改良技術につき同左）	●	法3後
3-2(3)イ	シェア計高いクロス・ライセンス（対価・数量・供給先等・ライセンス拒絶共同取決め）	●	法3後
3-2(3)ウ	シェア計高いクロス・ライセンス（技術利用範囲による事業活動範囲共同取決め）	●	法3後
4-2(1)	横取り（1社でも成立。有力技術を取得、ライセンス拒絶）	■	指2/14
4-2(2)	ホールドアップ（1社でも成立。ライセンス条件等誤導、ライセンス拒絶）	■	指2/14
4-2(3)	差別的ライセンス拒絶	■	指4
4-3(1)ア	権利内区分許諾	○
4-3(1)イ	期間限定	○
4-3(1)ウ	権利内分野制限	○
4-3(2)ア	製造地域制限	○
4-3(2)イ	数量製造下限（他技術利用排除しない場合）	○
4-3(2)イ	製造数量上限（市場全体供給量制限効果ある場合）	●	指12
4-3(3)ア	輸出禁止	○
4-3(3)イ	輸出地域制限	○
4-3(3)ウ	輸出数量制限（還流妨害効果ある場合）（消尽ずみまたはKHの場合）	●	指12
4-3(3)エ	輸出業者指定	●	指12
4-3(3)オ	輸出価格制限（国内競争の影響あれば）	●	指12
4-3(4)	サブライセンス先制限	○
4-4(1)	ライセンス許諾と原材料・部品等抱き合わせ（技術機能・効用保証、安全、守秘等正当化理由ない場合）	●	指10/11/12
4-4(2)ア	ライセンス製品につき販売地域・数量制限（消尽ずみまたはKHの場合）	●	指12
4-4(2)イ	同上相手先制限	●	指12
4-4(2)ウ	特定商標使用義務（他商標使用禁止ない場合）	○
4-4(3)	ライセンス製品の販売価格・再販価格制限	●	指12
4-4(4)	ライセンサー競争品製販禁止・競合技術ライセンス受け禁止	●	指2/11/12
4-4(4)	同上（KH守秘に必須の場合－－契約期間後短期間含む）	○
4-4(5)	最善努力義務	○
4-4(6)	KH守秘義務	○
4-4(7)	不争義務（原則○、無効権利存続・技術利用制限の場合●）	△
4-4(7)	ライセンシー無効主張の場合、ライセンス解除権	○
4-5(1)	一方的解約権（他の制限行為と一体・手段の場合）	●	指11/12
4-5(2)	オーバーオール・ロイヤルティ（計算の便宜等正当化理由ない場合）	●	指11/12
4-5(3)	権利消滅後のロイヤルティ支払い義務（延払いでない場合）	●	指12
4-5(4)	パッケージ・ライセンス（効用保証等正当化理由ない場合）	●	指10/12
4-5(5)	プラットフォーム技術の機能追加による応用技術抱き合わせ	●	指10/12
4-5(6)	非係争義務（ライセンサー地位強化・新技術開発阻害ある場合）	●	指12
4-5(7)	研究開発制限	●	指12
4-5(8)	アサイン・バック、独占グラントバック	●	指12
4-5(9)	改良技術の非独占グラントバック	○
4-5(9)イ	改良技術のライセンス先制限	●	指12
4-5(10)	取得知識経験の報告義務	○
共同研究開発に関する独占禁止法上の指針
	共同研究開発段階：
2-2(1)ア	業務・費用分担	○
	技術情報の相互開示	○
	守秘義務	○
	報告義務	○
	開示情報の流用禁止	○
	競合（密接関連）研究開発禁止（終了後合理的期間）	○
	競合技術導入禁止	○
	外部者の参加制限	○
2-2(1)イ	必要外の流用禁止	△	指12/11
	発展技術開発禁止	△
2-2(1)ウ	所定テーマ外研究開発制限	●	指12
	終了後研究開発制限	●
	既有技術利用制限	●
	成果製品外製販制限	●
	成果技術利用段階：
2-2(2)ア	成果帰属取決め	○
	成果第三者ライセンス制限	○
	同上ロイヤルティ分配取決め	○
	成果守秘義務	○
	他参加者への開示・非独占ライセンス義務	○
2-2(2)イ	成果利用研究開発制限	●	指12
	改良技術の譲渡・独占ライセンス義務	●
2-2(3)ア	製品化段階：	○
	販売先制限（KH守秘目的・合理的期間に限定）	○
	原料調達先制限（KH守秘・品質保持目的・合理的期間限定）	○
	品質規格維持義務（相互供給品限定）	○
	生産販売地域制限	○
	同上数量制限	○
	販売先制限	○
	購入先制限	○
	品質規格制限	○
	販売価格制限	●	指12
標準化に伴うパテントプールの形成等に関する独禁法上の考え方
	共同標準化段階：
2-2(1)	規格採用製品の価格協定	●	3後
2-2(2)	競争規格/技術開発の制限	●	3後/指12
2-2(4)	技術提案等の不当な排除	●	3後
2-2(3)	標準化メリットを超えて使用性能等を共通化	●	3後
2-2(5)	特定事業者の参加を拒絶して市場から排除	●	3前
案のみ	規格を特定事業者に不利なように工作	●	3前/指1
2-3	自己技術の規格採用を積極的に働きかけ規格採用後ライセンス拒絶等	●	3前/指2
	規約に反して規格技術を特許出願	●？	民1-2/3
3-2(1)イ	競争特許のプール	●	3後
3-2(2)イ	PPへの独占ライセンス	●	指12
	PP活動段階：	○
3-2(2)	合理的必要範囲で参加を制限する	○
3-3(3)	必須特許のグラントバック義務	○
3-3(4)イ	特許効力否認者に当該特許のライセンスを停止	○
3-2(1)ア	PPに含まれる特許が必須特許のみの場合（第三者による認定）	○
3-1(2)	PPのシェアが20％または競合技術が4個以上存在する場合	○
3-3(5)	係争者へのライセンス停止	○
3-3(1)	合理的理由なく特定事業者にライセンス拒絶・差別	●	3前/指1
3-3(2)	ライセンシーの研究開発制限	●	3
3-2(3)	ライセンシー情報を他へ漏洩	●	3後
3-3(4)ア	特許効力不争義務または共同制裁	●	指1
技術標準と競争政策に関する研究会報告書
	（共同）参加制限	●	指1/4
	欺瞞的宣伝によるde facto standard獲得	●	指11/12
	特許秘匿[32]	●	指13
	抱き合わせ	●	指10/11
	アクセス制限（合意標準）	●	法3-後、法21
	同上（単独獲得）	○？
ソフトウエアと独占禁止法に関する研究会中間報告書
	OSライセンス拒否	●	指2
	同上差別	●	指4
	バージョンアップ拒否・差別	●	指2/4
	グラントバック	●	指11/12
	守秘義務拡張	●	指12
	複製回数制限	●	指12
	改変禁止（著20-2-3/47-2）	●	指12
	リバース・エンジニアリング禁止	●	指12
	抱き合わせ	●	指10
	競合品取扱禁止	●	指11
デジタル・コンテンツ（CT）と競争政策に関する研究会報告書
	テレビ局によるCT死蔵（「窓口権」）	●	指13
	CTプロバイダーとプラットフォーム事業者の排他関係	●	指11
	CTプロバイダーによる対ユーザー料金拘束	●	指12
	著作権管理事業者による包括契約、包括料金、差別、参入妨害	●	法3-前
	DRM（技術的制限手段）	●？	法3-前後
よりビジョナリーな問題行為・構造
	OSメーカーによるミドルウエアム支配[33]	●？	法3-前
	MSパスポート／アクチベーションによる最終ユーザー囲い込み[34]	●？	法3-前
	MSソフトウエア・アシュアランス・プラン（超長期契約）同上[35]	●？	法3-前
	互換インク／フィルム詰め替え妨害[36]	●？	法3-前/指10
	互換メンテ妨害[37]	●？	法3-前
	互換ソフト妨害[38]	●？	法3-前
	ICタグによる有体商品流通支配	●？	指133
	RMI（権利管理情報）による情報商品流通支配	●？	指133
	アンブレラ・ライセンスにおける最恵ライセンシー約款	●？	法3-後
	根拠のない知的財産権主張によるジェネリック医薬品参入妨害	●？	法3-前
	濫用にあたる知的財産権主張	●？	法3-前
	知的財産権に名を藉りた並行輸入妨害	●？	法3-前
	不人気Codec（DRM）をスパイウエア手法でユーザーPCルートに移植[39]	●	指10
	DRM（性能抑圧）品にその旨明瞭表示しない[40]	●	指8/景表4-1

2．米国－－行政ガイドラインの変遷：

2．1．1970年代Nine No No’s：

　1975年ごろ、当時までのミスユースと反トラストの判例に基づいて、知的財産権ライセンス契約にみられる一定の制限条項をper se illegalとする行政ガイドラインが、主として司法省幹部のスピーチの形で流布した。これがいわゆるNine No No’sである。しかし、このNine No No’sは、5年後、知的財産権を米国の通商兵器として鎖から解き放すという発想を持ったレーガン政権司法省のシカゴ学派からはげしい攻撃にさらされた。当初のNine No No’sと、それぞれに対するシカゴ学派の評価を下表にまとめる。

Nine No No’s[41]	シカゴ学派[42]
(1)ライセンシーに対する非特許材料の購買先制限	合理的な場合がある
(2)ライセンシー特許権のアサイン・バック強制	ケース・バイ・ケースで判断すべき
(3)特許製品に関する再販価格等制限	Sylvania 1977[43]の垂直取引基準で判断すべき
(4)ライセンシーに対する非特許製品／サービス取引制限	競争者間だけに適用すべき
(5)特許権者に対する他ライセンス許諾制限	特許権者の投資意欲を阻害し、かえって反競争的
(6)パッケージ・ライセンス	実施料しだいで合理的な場合がある
(7)特許製品販売額にスライドしないロイヤルティ（オーバーオール方式）	競争者間についてのみ、rule of reasonで判断すべき
(8)製法特許権者によるライセンシーに対する製品販売価格等制限	製品特許と区別する理由がない
(9)ライセンシーに対する特許製品の販売価格等制限	競争者間については妥当だが、垂直関係ではゆるく判断すべき

2．2．1995年知的財産ライセンシングに関する反トラスト・ガイドライン[44]：

　司法省／FTC共同の1995年知的財産ライセンシング・ガイドラインは、1970年代までの行政府の基本的認識－－知的財産権は本質的に独占権であって、行政の任務はその独占の弊害を最小限に押さえこむことだ－－を180度転換し、シカゴ学派の知的財産観－－知的財産権は本質的に競争創造的であって、ミスユース法理や反トラスト法[45]による干渉は最小限にとどめるべきだ－－を前面に押し出した[46]。

　ガイドラインの基本方針は大要つぎのようである：(1)ライセンシング契約は一般的に競争促進的である。(2)知的財産権による市場力の推定をとらない。(3)反トラスト分析上、知的財産を他の有形財産と同一に扱う。

ここでガイドラインが扱う知的財産とは、(1)特許、(2)著作権、(3)トレード・シークレットである。

　ガイドラインは知的財産ライセンシングに関連する市場として、(1)製品市場、(2)製品市場が適切でない場合は技術市場（特許やノウハウの市場）、(3)前2者が適切でない場合は革新市場（研究開発用の資源（たとえば材料／機器／人材など）の市場）を提示する。

　ただ、セーフティ・ゾーンとして、(1)問題の取引制限が一見して反競争的でなく、(2)関連市場において、ライセンサー、ライセンシー合わせた市場占有率が20%以下であるか、または、ライセンサー技術を含めて5個以上の競合技術が存在するか、（革新市場の場合）5個以上の企業が革新の能力と意欲を有している場合、司法省はこれを訴追しない方針である。

　ガイドラインは、知的財産ライセンシングに関しては、per se illegalアプローチを廃して、すべてrule of reasonで、つまり、(1)問題の取引制限が反競争的か、(2)競争促進効果が反競争効果を上回るかどうかを考慮する。ガイドラインは、知的財産ライセンシングは一般に垂直関係だが、水平関係でも非排他的であれば合法の推定をおこなうとしながら、クロス・ライセンスや特許プールは開発意欲を減殺するおそれがあるとして、競争者間の取引制限には依然として警戒をゆるめていない。

3．EU－－委員会専権から地方分権へ：

3．1．一括適用除外規則：

　EUにおいて知的財産権と競争法のか lang=EN-US style='font-size:12.0pt'>EC条約81条と82[48]である[49]。EU81条1項に触れ、かつ同381条3項の適用除外宣言は委員会の専権[50]であったため、事業者は、いちい lang=EN-US style='font-size:12.0pt'>81条1項に該当しない旨のネガティブ・ lang=EN-US style='font-size:12.0pt'>81条1項該当だが381条1項に該当するかどうか、さらに3[51]。かわりを扱う法は主として[47]条では、条約項による適用除外を受けない共同体レベルの技術移転契約は、加盟国法廷において無効とされるばかりでなく、場合によっては欧州委員会の調査を受け、過料を課される。条約項で適用除外を受ける旨の個別適用除外をもらう必要があった。この件数が膨大なものになったため、委員会は、一定の契約条項類型を、それらが条約項の適用除外を受けるかどうかをあらかじめ示すため、一連の一括適用除外規則を制定してきた

3．2．技術移転契約規則：

　技術移転契約の一括適用除外については、1984年特許ライセンス契約規則、1989年ノウハウ契約規則、これらを統合した1996年技術移転契約規則を経て、2004年5月1日から現行2004年技術移転契約規則が施行されている。米日のガイドラインと違って、EUの一括適用除外規則は私人にも適用がある法だが、2004年規則は、拡大EUに対応して、委員会専権のかなりの部分を加盟国の競争当局に委譲し、さらに規則のほかに（委員会の権限外の事項もカバーする）詳細な行政ガイドラインを発表して、内容／形式とも、よりフレキシブルな規制に変貌している。旧規則で委員会に与えられていたネガティブ・クリアランスや個別適用除外の権限が消えた。

2004年技術移転契約一括適用除外規則[52]：

　本規則はライセンサーからライセンシーへの技術移転（特許／ノウハウ／ソフトウエア著作権ライセンス）を対象とする。R&D委託契約や特許プールは対象としない。

　シェア合計20%未満の競争者間契約、シェア各30%未満の非競争者間契約は、一定の重要な競争制限条項（後述「黒条項」）を含まないかぎり、81条3項該当と推定する（安全港）。

　従来のような個別適用除外はなくなり、自己評価／自己責任制に変わった。

　加盟国の競争当局は、各国内地方によって81条3項非該当と認める契約について一括適用除外を撤回することができる。また、同種の取引制限条項の累積的効果が関連市場の50%超をカバーする場合、委員会は、6か月事前の規則を制定して、本規則の不適用を宣言することができる。規制緩和が暴走した場合に備えた非常大権である。

　黒条項（ハードコア制限条項）：つぎの制限条項を有する契約は適用除外を受けない。

　　競争者間契約：(1)第三者向け販売価格制限。(2)生産量制限。(3)市場／顧客制限（分野制限、生産／積極販売地域制限、セカンド・ソーシングの場合は可）。(4)独自技術使用／R&D制限。

　　非競争者間契約：(1)第三者向け販売価格制限。(2)消極販売地域／顧客制限（ライセンサー地域、他ライセンシー地域（2年限定）向け、拠点制限は可）。

　灰条項：つぎの制限条項は適用除外を受けない（個別評価）。(1)排他的グラントバック義務。(2)アサイン・バック義務。(3)不争義務（ライセンサーからの契約終了権を妨げない）。(4)（非競争者の場合）独自技術使用／R&D制限。

2004年技術移転契約一括適用除外規則ガイドライン（規則の解説部分は省略）：

　契約当事者の技術以外に4個以上の代替可能の技術があれば81条違反にならない可能性がある（安全港）（ただしネットワーク効果などで現実に代替可能といえない場合を除く）。

　タイングとバンドリング：

タイングの制限効果は、(1)タイド商品の競争供給者の排除（foreclosure）、(2)ライセンサー市場力の維持（参入障壁アップ－－新規参入者が複数の市場に同時に参入しなければならない）、(3)ライセンサーによるロイヤルティ引き上げ（とくにタイング商品とタイド商品が部分的に代替的である場合）、(4)ライセンシーがロイヤルティ引き上げを嫌って代替インプットに逃げられないことである。競争者間／非競争者間を問わない。ただ競争制限が起こるためには、ライセンサーが市場力を持たなければならない。また排除が起こるためには、ライセンサーがタイド商品市場である程度のシェアを持たなければならない。タイングは効率ゲインをもたらし（たとえば、タイド商品が許諾技術の利用や品質維持のために必要な場合など）、競争促進的である場合がある（タイド商品がライセンシー許諾技術の利用効率化のために有用な－－ライセンサーから触媒を買う－－場合など）。

　非競業義務：

競争上のリスクは、主として第三者技術の排除（既存技術との競争阻害）とロイヤルティ高値固定である。クロス・ライセンスの場合は製品市場でのカルテルになる可能性がある。ただ、ライセンサーとライセンシー群で市場の50%未満の場合、累積効果は深刻ではない。非競業義務には競争促進効果もある。これがないと、許諾技術（とくにノウハウ）の流用やロイヤルティのモニタリングが困難になってライセンス意欲を阻害し、技術拡散のディスインセンティブになる可能性がある。

　和解と不争契約：

問題の技術が一方ブロッキングか双方ブロッキングかの検討が必要（ブロッキングがないときは競争者間の扱いになる）。市場力ある事業者同士のクロスは81条1項該当の可能性がある（ブロッキング関係でも）。和解がなければライセンスもなかっただろう場合、和解は競争促進的である。

　技術プール（委員会の権限外なのでガイドラインでのみ記述）：

技術プールは競争制限的である可能性がある。技術標準設定の場合でも、排除や参入阻害になる可能性がある。競争制限性の判断にあたっては、まず、プール技術の性質（補完か代替か、不可欠か可欠か）を見定めなければならない。代替技術のプールは技術間競争を阻害する。不可欠技術だけ、したがって非補完技術だけのプールは概して81条に該当しない。可欠かつ補完技術のプールは第三者技術を排除するす可能性がある。パンテント・プールは、また、無効特許の隠れ家になる場合がある。ライセンス終了権はライセンサー特許に限定する必要がある。他方、技術プールは競争促進的である可能性もある（取引コスト軽減）ので、ケース・バイ・ケースで個別制限条項を評価しなければならない。その場合は、(1)プールの市場ポジション、(2)ポジションが強いときは、開放性と非差別性、(3)第三者技術や代替技術を排除しないこと、(4)プールの制度的フレームワーク（たとえば、異なる利害を持つプレーヤーへの開放、外部専門家の関与、紛争解決メカニズム）などが評価される。

3．3．知的財産権ライセンスによる市場分割：

　EC条約は、まず2条に、「共同体は、ひとつの共同市場を設立・・することをその任務とする」と規定、続けて3条に、「前条に掲げる目的のため、共同体の活動は、・・(a)商品の輸出入に対する関税および数量制限ならびにそれと同等の効果を有するその他の措置の加盟国間における撤廃を含むものとする」と規定、さらに28条に、「輸入品に対するすべての量的制限および同等の効果を有するすべての措置は、加盟国間において禁止される」と規定して、EC条約の最大の任務が共同市場の統一にあることを宣言している。この原則に反する加盟国政府の措置が条約違反であることはいうまでもないが、問題は、私人による国家知的財産権の行使がもたらす共同体市場の分割に対して、条約になにができるかという点である。このような私人の行為にはふたつの態様が考えられる。ひとつは権利者の単独行為による国家知的財産権の一方的行使であり、もうひとつは知的財産権ライセンス契約に基づく市場分割である。前者に対しては条約28条が直接適用される（本稿では省略－－注20参照）が、後者に対しては条約81条1項(c)（注18参照）が直接適用される。欧州司法裁の主要判例を以下に要約する。

　Consten/Grundig v. Commission, [1966] ECR 299：ドイツの家電メーカーGrundig社は、同社製品（「GINT」商標）について、フランスの卸商Consten社に対して、(1)GINT商標をフランスで登録する、(2)フランス内で競争品を扱わない、(3)フランス外に契約製品を輸出しないという義務を課し、他方、Grundig社は、(4)契約製品を直接間接にフランス内に配給しないという義務を負う排他的販売契約を締結した。判決要旨：｢Consten社はフランス法上GINT商標の所有者だが、それは並行輸入を阻止するためにGrundig社と締結した契約の産物だから、条約81条が適用される｣。

　Nungesser/Eisele v. Commission, [1982] 2015：フランスの公共企業体INRAは、新種メイズとうもろこしの育成者権に基づいて、ドイツ人Eiseleにドイツ国内における同産品の排他的生産販売権を与え、かつ、同産品が他ルートでドイツ国内に流入しないよう手段を講じることを約束した。判決要旨：｢一般に、知的財産権ライセンス契約は『開放的排他ライセンス』（ライセンサーがライセンシー地域内で自ら実施せず、また第三者にもライセンスしない）と『絶対的地域保護』（ライセンサーが同地域内への並行輸入を阻止する）とに分けられるが、前者はもともと競争制限的でない一方、後者は条約81条1項に抵触し、同3項による適用除外も受けない｣。

Ⅱ　特許権ライセンス契約チェックリスト：

はじめに：

訴訟と交渉：特許権ライセンスの価格交渉においては、権利者側、潜在的ライセンシー側いずれも、必ず、平和的な交渉で妥結するか（「C」）、訴訟で決着をつけるか（「D」）の決断を迫られる局面がある。これは次のような2行2列ゲームになる。

	C	D
C	r,r	s,t
D	t,s	p,p

r(eward) = 平和的交渉で妥結した場合双方が受け取る利得
s(ucker) = 訴訟の脅しに屈した側が受け取る利得
t(emptation) = 訴訟の脅しに成功した側が受け取る利得
p(enalty) = 訴訟で決着した場合双方が受け取る利得

前置が行側、後置が列側の利得である。

　以上の知的商品モデルにおいて、取引コスト（>0）、訴訟リスク（=1/2）、「事業戦略としての訴訟の合理性」（p>s）を前提すれば、t>r>p>s、r>(t+s)/2 を満足するから、これがいわゆる「囚人のジレンマ」ゲームになって、双方にとって第3希望ながら訴訟による解決（p,p）という安定なナッシュ均衡を得る[53]。これが無限繰り返しゲームになれば、いわゆる tit for tat（最初にＣを選択し、以後前回の相手の選択を「オウム返し」する）戦略をとるプレーヤーが、長期的には最大の利得を得るという準協調解がある[54]。しかし、大型特許係争のように、同一当事者間ではあまり反復性がない場合、この繰り返しモデルは通用しないだろう。ちなみに、上の説明で、「事業戦略としての訴訟の合理性」を前提しない（p<s）場合は、t>r>s>pとなって、いわゆるチキン・ゲームという、ナッシュ均衡がふたつある不安定な状況が現出する。米国のような倫理的動機に基づく懲罰的損害賠償が、「事業戦略としての訴訟の合理性」の前提を崩し、ビジネス紛争をチキン・ゲーム化している。

実施権の法的性格：特許実施権の「権」は、特許権の「権」とはその法的性格が異なる。特許権は、世上の誰に対しても、実施の禁止を請求できる物権[55]に準じる権利だが、特許実施権は、ライセンサーに対してだけ、特許権の不行使を請求できる債権（不作為請求権）にすぎない。

専用実施権は、公開の特許原簿への登録[56]が効力要件である[57]。専用実施権が設定されると、特許権者も実施できなくなる[58]。経済的効果が特許権の譲渡に近いためもあって、親子会社間など以外、あまり利用されていない。

通常実施権は許諾のみで発効する[59]が、登録すれば、特許権の移転や専用実施権の設定に対抗することができる[60]。登録すると契約者名や条件なども公開されてしまうためもあって、従来はあまり利用されていなかった。しかし、ライセンサー（特許権者または専用実施権者）がM&Aされると、登録していない通常実施権は消滅してしまう[61]ため、特許庁は、登録を促進すべく、登録事項をある程度非公開にする法改正を立案中である。登録にはライセンサーの協力が必要なので、契約で義務づけておかなければならない。

通常実施権には、独占（排他）的と非独占（非排他）的の2種類ある。独占的通常実施権は、登録すれば、実務的には専用実施権に似ている。独占的通常実施権が設定されれば、特約がない限り、ライセンサーも実施できない（この場合を「完全独占的通常実施権」と呼ぶこともある）。

専用実施権と通常実施権の違いは、第三者の侵害に対するライセンシーの請求権において顕著である。特許権者がなにもしてくれなくても、専用実施権者は、自分の権利（準物権）にもとづいて、侵害者に対して損害賠償や差止めを請求できる。

通常実施権者は、契約にもとづき、特許権者に第三者侵害の排除を請求できるだけで、自分の権利（債権）にもとづく対第三者請求はできないはずである。実際、非独占的通常実施権者はなにもできない（だから契約でライセンサーに義務づけておかなければならない）。しかし、独占的通常実施権者は、「独占」という利益が侵されている（不法行為）という理由で、損害賠償請求ができるというのが判例学説[62]（不法行為だから差止請求はできない[63]）。また、独占的通常実施権者は、特許権者が動いてくれないときは、特許権者に代位して侵害第三者に損害賠償や差止請求ができる可能性がある（契約で明記しておく必要がある）。

特許実施権の種類		法的性格	登録	権利者実施	侵害第三者への請求
					損害賠償	差止	債権者代位
専用実施権		準物権的	効力要件	なし	あり	あり	不要
通常実施権	独占的	債権的	対抗要件	あり（明記要）	あり	なし	ありうる
	非独占的			あり	なし	なし	なし

以下、典型的な特許権ライセンス契約の条文ごとに各論するが、実務では、モデル契約や雛型などにとらわれず、取引きの実態に応じて、フレキシブルに考えることが重要である。とくに最近では、特許権ライセンスが、M&Aや共同開発の一部として行われることが多くなっているので、特許屋的発想ではなく、ビジネスマンとしての戦略的な発想が必要である。ただ、契約は、強行法規である独占禁止法には劣後する[64]ので要注意。

1．前文：契約要素の明記（後日の錯誤[65]主張を封じる）。まちがえて現地子会社と契約した例がある。

　1．1．当事者：ここでは甲と乙（競争者－－水平関係）。二者契約が望ましい。第三者を介在させると、法律関係が非常に複雑になる。仲介商社を入れると、立場があいまいで、あとで修正や解除の場合同意が必要。どうしてもというなら、二者契約を3本結ぶ。

　1．2．契約特許：番号を特定する場合と、製品だけを特定してそれに使用する全特許とする場合がある。後者（パッケージ・ライセンス）は、ライセンシーが求める技術の効用保証など一定の合理性がある場合を除いて指10/12違反●（指針第4-5(4)）（問題あり）。ロイヤルテイ計上方式と関連する（7.2.1.参照）。グローバリゼーションの現代では、契約特許にすべての対応外国特許を含めるのが望ましい。

　共有特許ライセンスの可否は国によって違う（日本では共有者の同意が必要[66]だが、米国では不要なので注意）ので、明記しておいたほうがいい（とくに共同開発を含む場合）。

　1．3．発効日：署名日と異なる場合がある（たとえば政府認可日。隔地者間では最終署名　日）。発効日を明記しておいたほうがいい（何十年後にはわからなくなる）。

2．定義：

　2．1．契約製品（ロイヤルテイ賦課対象とは必ずしも一致しない）。「xx事業部製品」という例があるが、何十年後には変わってくる。

　2．2．純売上高（net selling price）。返品、各種リベート、見本など控除。厳密に定義。

3．契約期間：ライセンスが終了する場合と、期間中出願／登録された全特許を特許期間中ライセンスする場合とがある。どちらにしても明記要。

4．ライセンス許諾文言：「甲は乙に対して、契約期間中、契約特許にもとづき、契約製品を製造（外注含む－－明記要）、販売、使用（製品買手に対する使用許諾含む－－明記要）、輸出入する［独占／非独占］ライセンスを許諾する」。いずれも本質はライセンサーによる損害賠償／差止めの不作為請求権。

　「独占」の場合は定義が必要－－「ライセンサーが他に契約特許のライセンスを許諾しな　　い」というのが一般的。ライセンサー自身が実施する場合はその旨明記要。「独占」が「ライセンシーが他から競合特許のライセンスを受けない」という意味なら、指11違反●（指針第4-4(4)）。

　「専用実施権」はまったく別物（譲渡とほとんど同じ。あまり使われない）。

　サブライセンス許諾はライセンサーの同意が必要だが、国によって違うので、明記要。

　クロス・ライセンス契約の場合は、「乙は甲に対して・・」を同文併記。

5．ライセンサーの権利／義務：

　5．1．ライセンサー実施および第三者への実施許諾。「独占」や「完全独占」ではあいまいなので、明記要。

　5．2．第三者侵害排除義務：「独占」では義務ありとの地判あるも、批判が強いので明記要。債権代位や債権侵害も、明記なければほとんど認められない。ライセンシーの協力義務は明記要。

　5．3．通常実施権設定登録義務：登録は第三者対抗要件、ライセンサー破産の場合も対抗できる。最近のM&A／権利転がし／倒産の盛行にかんがみ必要性増大（最近のM&Aは隠れた技術取得目的が多い）。明記なければ義務ない[67]が、諸説あるので明記要。「独占」は登録できないので、第三者に対抗できない。

　5．4．並行輸入排除義務（絶対的地域保護）：価格維持効果あれば指12違反●（流通取引慣行指針第3-2(2)）。消尽後であれば無条件で指12違反●（指針第4-4(2)ア）。

　5．5．商品性の保証義務：最近ほとんど見ないが、要求されたら断る。

6．ライセンシーの権利／義務：

　6．1．製造・販売地域（分野）限定義務：特許実施品に限って○－－特許実施品以外では市場分割契約で法3後違反●（指針に記載なし）。権利消尽後の販売地域限定は指13違反●（指針第4-4(2)ア）。指針は、EUのような積極的販売／消極的販売の区別はしていない（EUでは2年以上の消極的販売地域限定は●）。分野限定は○（指針第4-3(1)ア）。契約書の書き方に注意。

　6．2．改良特許非独占グラント・バック（「GB」）義務：既存特許のGBはクロス・ライセンスと同じになる。排他的GBやアサイン・バックは指13違反●（指針第4-5(8)）。

　6．3．販売価格・再販価格維持義務：法3後／指12違反●（指針第4-4(3)）。

　6．4．生産量制限義務：市場全体供給量制限効果ある場合、指12違反●（指針第4-3(2)イ）。それ以外の場合、指針に記載なし（たぶん○）（EUでは競争者間は●）。

　6．5．共同ボイコット義務：法3後／指1違反●（指針に記載なし）。

　6．6．特許プール義務：ライセンス拒絶は法3前違反■（指針第3-1(1)ア）。代替技術／対価・数量・供給先制限／参入妨害は法3後違反●（指針第3-2(1)イウエ）。

　6．7．抱き合わせ義務：材料購買や不要特許。ライセンシーの競争手段を制約すれば指10/11/13違反●（指針第4-4(1)）。

　6．8．契約特許効力不争義務と非係争義務：不争義務は、「指針」では大議論あったが○に近い（指針第4-4(7)）（米国／EU●）。ライセンシー無効主張の場合ライセンサーの契約解除権は○（米国●／EU○）。マルチプル・ライセンスでの非係争義務は、指12違反●（指針第4-5(6)）。

　6．9．通常実施権設定登録請求権：5.3.参照。明記要。

7．対価（ロイヤルテイ）：

　7．1．一括払い（lumpsum）方式：全ライセンスの価格を一括して払う（分割もある）－－後日トラブル最小だがギャンブル性最大。

　7．2．出来高払い（running royalty）方式：純売上高（「NSP」）が監査される。

　7．2．1．overall方式：契約特許を使っても使わなくても契約製品のNSPに応じて一定率　　　または1個あたり一定額払う－－後日トラブル中程度。ライセンシーが競争技術を使うことを妨げる効果を有することがあるから指11/13違反●（指針第4-5(2)）（問題あり）。

　7．2．2．if-used方式：契約特許を使った契約製品のNSPに応じて一定率または1個あた　　　　　　り一定額払う－－後日トラブル最大だがギャンブル性最小。

　7．2．3．二重払い防止：製造時点のみで賦課（1.2.参照）。

　7．3．応用：

　7．3．1．lumpsum（またはadvance）とrunning royaltyの併用。

　7．3．2．minimum royalty。

　7．3．2．一時金。いろいろな名目がある（8.参照）。

　7．4．契約特許無効の場合、既払いロイヤルティ返還不請求義務（これがない場合返還請求　　　　の可能性あり－－学説）。

　7．5．源泉税：国によって違うので要注意。ライセンシーが源泉税負担（ロイヤルテイを税　　　　引き額で決めること）は不可能。源泉受領書送付義務。

　7．6．延滞利子：「年xx%または各当事者に適用ある法定最高率のうちいずれか低いもの」と明記望ましい（日本では現在21.9%）。

8．免責：過去の侵害あれば免責。一時金の対価であることが多い（7.3.2.参照）。

9．一般条項：

　9．1．最恵ライセンシー条項：カルテルの疑い（少数説）。

　9．2．帳簿・報告・監査：running royaltyの場合だけ。

　9．3．解除・満了：特許譲渡を入れる（5.3.参照）。満了後の支払い義務残存を明記望ましい。

　9．4．仲裁：なくてもいい（訴訟に自信のある大企業は仲裁を嫌う）。

　9．5．不可抗力：消極的販売地域制限を緩和するために使えないか？

　9．6．合意の全体：交渉中の言質・仮合意をすべて失効させる。

　9．7．通知：発信主義。

　9．8．準拠法：訴訟が起きそうな土地の法（日本法に固執しない）。なくてもいい（裁判地の抵触法で決まる）。

　9．9．裁判地：ないほうがいい（求める救済の内容によって変わる－－たとえば特許国や目的物の所在地）。

補論：

ノウハウ供与契約：ノウハウはどう考えても知的財産「権」ではない。対世的に権利を主張できる準物権ではなく、他人にノウハウを開示する債務と、かかる他人に守秘と対価支払いを要求できる債権からなる債権契約によって保護される情報にすぎないからだ。したがって、ライセンス／ライセンサー／ライセンシー／ロイヤルティ／実施などの言葉も不適切である。かわりに、供与／供与者／受領者／対価／利用などの言葉を使う。知的財産権ではないから、独占禁止法21条による適用除外もない。指針は「技術」として両方をカバーしているが、必要に応じて書き分けている。

特許権ライセンスだけでは特許品を製造できないから、ノウハウの供与もともに行う場合が多いが、契約は2本に分けなければならない。これはひとつには独占禁止法への配慮もある（特許とノウハウの牽連性が強いと、特許権なら許される取引制限が、ノウハウ供与にともなう取引制限をみなされて違法になることがある）が、契約技術上の要請も強い。よく見かける技術者の教育訓練や、技術者派遣の条件、契約満了に伴う利用禁止や守秘義務の延長など、特許権ライセンスとはまったく異なる世界である。

ノウハウ供与契約のチェックポイント：

1．ノウハウの特定：マニュアル（更新の有無）／教育訓練／ノウホワイの有無など。

2．守秘義務：具体的に（法的／物理的）。監査（実行）要。判例はこれを厳しく要求。

3．期間：特定期間と「受領者の責めによらざる公知化」のいずれか短いほう。

4．対価：期間終了後の取決めが必要（利用停止かそれとも無料ないし一時金で利用可能か）。期間の定めのないノウハウ契約で、永久の対価支払いを命じられた米国判例がある。

5．取引制限：製造場所／製造数量は、特許権ライセンスと同様、条件つきで○。販売価格／再販価格制限は、特許権ライセンスと同様指12違反●（指針第4-4(3)）。ノウハウには特許権のような「消尽」がないから、販売地域制限は指12違反●（指針第4-4(2)ア）。

　特許パッケージ・クロス契約：何万件もの特許を持つ会社同士が一々裁判で白黒をつけようとすると、莫大な費用と手間がかかって共倒れになる。これを避けるため、お互いの技術力をリスク・マネジメントの手法で評価して、特許パッケージ・クロス契約（一定の製品について権利行使をしない契約）を結ぶという慣行が、特に大企業の間で広く行われている。この場合のライセンス料は「バランシング・ペイメント」という形態をとる。これは，取引きコストを軽減する上で不可避な手法である。

　指針は、第4-5(2)で、技術の利用と無関係なライセンス料（オーバーオール・ロイヤルティ）は、ライセンシーが競争技術を利用することを妨げる効果を有することがあるとして、指11/12違反●とし、さらに、第4-5(4)で、ライセンサーがライセンシーに対してライセンシーの求める技術以外についても、一括してライセンスを受ける義務を課す行為（パッケージ・クロス契約）を、ライセンシーが求める技術の効用保証など一定の合理性が認められる場合以外、ライセンシーの技術の選択の自由が制限され、競争技術が排除される効果を持ちうることから、指10/12違反●としている。いずれの場合も、「取引コスト軽減」は正当理由にならない。このことをどう考えたらいいか。

　実は、この「オーバーオール・ロイヤルティ」と「パッケージ・クロス契約」は、旧指針でも違法とされていた（指針とほぼ同文）。しかし、起草者による解説書は、少なくとも「パッケージ・クロス契約」は、ライセンサーが一括でなければライセンスを拒絶するというような強制を伴う場合を前提としている[68]。明言はしていないが、「オーバーオール・ロイヤルティ」も同断であろう。とすると、前段の下線部を否定できる立証（契約書の文言と交渉議事録など）ができればセーフである（指10/11/12にはいずれもこの要素がある）。

　ただ、公正取引委員会のパテント・プールに対する警戒心や、MicrosoftのOS開示にともなう特許権非係争義務に対する反発を考え合わせると、19条よりも、3条後段違反の技術カルテルという攻撃のほうが要注意である。半導体では、大手メーカー間の複雑な特許パッケージ・クロス契約網が完成しており、鉄鋼ほどの資本力をもってしても参入が不可能だった。米国でならば、大型の独占禁止法私訴が起こっていたかもしれない。

リンク：

知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針： http//www.jftc.go.jp/dk/chitekizaisan.html

共同研究開発に関する独占禁止法上の指針： http://www.jftc.go.jp/dk/kyodokenkyu.html

標準化に伴うパテントプールの形成等に関する独占禁止法上の考え方： http://www.jftc.go.jp/dk/patent.html

注